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2014 / 6 / 19

花束を。

by ayumu

ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』の存在を萩尾望都の漫画で知った、とTwitterやFacebookで語っている人が幾人かいた。ぼくと同じだ! なんだかうれしい。

『毛糸玉にじゃれないで』は日常を描いた何ということのない短編漫画なのだが、そこに登場する少年の
「キースのアルジャーノンなんかさ わくわくするな」
という短いセリフは、なぜか深く心に残るものだった。
このたった一言のセリフが、ぼくを含む少なくない人をあの作品に導いたのだ。

実際に『アルジャーノン』を手にとったのは漫画を読んでから何年もあとのことだった。「これが、あのアルジャーノンか」。

『アルジャーノン』を読み始め、読み進めた時の驚き、読み終わりでの思いは、その時からさらに三十年ほどたった今でもほんとうに忘れがたい。深く息を吐いて、暖かな涙が流れた。

読み終わってみると、あの少年の「わくわくする」という気持ちはまさに『アルジャーノン』であるからこそ、であることを改めて理解して、そう少年にしゃべらせた漫画家が『アルジャーノン』とダニエル・キイスと、そしておそらくは翻訳家に対して親しみのある敬意を抱いていたことを強く感じた。そのことに、二重に涙した。

ダニエル・キイスというひとりの作家が言葉で編んだ花束が、小尾美佐という翻訳家の言葉と、萩尾望都という漫画家の言葉でリレーして、読者である自分に届けられたようなイメージを抱いている。

ダニエル・キイスの訃報を聞いて、たぶんだれもが言いたくなるだろう最後のセリフは、胸の中でそっと言うことにしよう。


 

 

『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス著、小尾美佐訳
文庫本にもなったけど、単行本のほうのの華やかな花の絵の表紙がやはり好きだな。
http://www.amazon.co.jp/dp/4152033932/

『毛糸玉にじゃれないで』萩尾望都
小学館文庫『ルルとミミ』に収録。
http://www.amazon.co.jp/dp/4091913504

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