錆びた歯車は天空のプログラム
ここ数日、Macの画面やiPhoneの画面を見て、ドキリとすることが幾度となくあった。
ドキリとしながら理由がわからず、ん?ぼくは今何を見たんだ?と思って画面をよく眺めてみたら、そこに表示されたアイコンに、歯車が描かれていた。
わが社のウェブサイトに載っている、上野さんの作ったIxEditのアイコン。Mac OSやiPhoneの画面の片隅にある環境設定のアイコン。
それが眼の片隅を通過するたびに、ドキリとしている。
歯車。
アンティキテラのマシンのせいである。
アンティキテラの機械の話は、数年前にたぶんネットのニュースか何かで眼にしていた記憶がある。しかしあまり内容を追うことなく忘れていた。
この本を読み終えて、2000年以上前に作られた機械への100年に渡る探求と、そこからわかった事実を目の当たりにして、少し興奮気味。
紀元前の人々が、楕円軌道によるずれを含む太陽や月の正確な動き、地上からは実に複雑にみえる惑星の動き、それになんと日食・月食の時期をもきちんと予測できていたとは。
天動説がとられ、惑星や衛星の運動のしくみがわかっていなかったにもかかわらず、実に正確に予測していたのだ。何世紀にもわたる緻密な観察のみによって、天体の様々な周期を見いだしていたのだ。
そして、そこで得られた複雑な複数の天体の動きの規則を、歯車の組み合わせだけで算出できるようにした人たちが、いたのだ。
さらに、その知識と技術が一度失われ、再び歯車で時を刻めるようになるまでに、1000年の時がたっていた。
そのような機械が紀元前に存在したことすら人類は忘れ、何世紀もすごしていた。
100年前、たったひとつの機械が、海の底から発見されるまでは。
クストーが今のスクーバダイビングのしくみを発明する以前、19世紀の潜水の話からこの本ははじまる。
去年のぼくにはわからなかった海の底のリアリティと危険が、今ならわかる。
海綿の棲む海底に眠っていた機械。星々が駆ける天空から数世紀をかけて得た膨大な知識。緻密な歯車の組み合わせの数学。2000年前の思想。失われた時間。錆と石灰に埋もれた秘密のプログラムを解読しようと競う学者たち。
この本の中に閉じ込められているさまざまな世界、時間、意識……それが個々に、あるいは相互にからみあって、ぼくの脳の中をぐるぐるとかけめぐっている。
宇宙のなかのちっぽけな星に生きている人間という存在を、実にいろいろな角度で描き出してくれる話であり、その興味深さを巧妙に組み立てて読ませてくれる本である。
ああなんて面白い。
ネコに攻略される必然
うちの猫を見ていると、この種族はこうして長い間生きながらえてきたのだろうなあ、とつくづく感じます。
こうして、というのは、「人間に甘える、という戦略」です。
トコトコ歩いてきて、足元でころんとひっくりかえり、脚の先をくるんと曲げて腹を見せながらしなを作り、上目遣いにこちらを見つめて、にゃぁ……たまんないです。
人間と共存しているネコであれば、人間が世話をしたり守ったりしたくなるようなしぐさや声を持つ個体ほど、生き延びやすかったはずです。そうしてネコは、人間にとって可愛い存在になるように進化してきたのではないかと。
哺乳類の赤ん坊が人間に限らず、成体にとって可愛いと思えるような顔のつくりをもっていて、それによって自らを守る(守らせる)、というのと似て、ネコはその一生においてずっとそのような戦略を使っている気がします。
もちろん進化の結果なので、彼らが意思をもってそうしているのではなく、そういう生き物であると。
だから、可愛くないはずがないんだよねえ。そこらに臭いオシッコしようが、時にひっかかれて痛い思いしようが。