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7月

「就活徴兵制」

「短期間での訓練ではまともに使えない」か

「現代戦においては訓練を受けた専門家でなければ役に立たない」ということから、徴兵制はありえない、というふうに言われる。

自衛官の現在の構成は、幹部4.3万、准尉4500、曹14万、士5.5万。
充足率はいずれの階級でも100%に満たないが、特に士の充足率は68.8%と低い。※1
いわゆる下士官以上の幹部が兵卒よりも多い構造になっていて、若い人材が不足している。

「自衛官候補生」という採用制度が2011年から始まっている。※2
これは、自衛官になるための教育期間を設けた採用制度で、教育期間は3ヶ月。その後任期制自衛官に任官して、陸上自衛隊であれば1年9ヶ月、海・空は2年9ヶ月勤務する。
つまり教育期間を含めると、陸自は2年間、海自・空自は3年間自衛隊の一員となる。
その後選抜試験合格によって任期を継続することもでき、その場合は曹という階級になって、自衛隊の主力中堅となる。

つまり、2年間という期間でも「士」として任官することができ、その中からさらに任期を継続する者がでれば、自衛隊全体として確実な人員の確保になってゆくという形になっている。
ということは、「現代戦においては訓練を受けた専門家でなければ役に立たない」ということでは必ずしもなく、まずは2年という限定的な期間であっても人材は必要であるということだろう。
したがって「短期間では教育・訓練ができないので徴兵制はありえない」とは「言えない」、ということになる。

「徴兵制は現代になじまない」理由

ただ、たとえば18歳になった人をすべて徴兵するといった形では、逆にあまりにも人数が多すぎ、コスト等の点で現実的ではない。

森本敏 元防衛大臣、石破茂 自民党幹事長、西修 駒沢大名誉教授の鼎談による『国防軍とは何か』※3 で、石破氏は、

全くの素人をある年齢に達したからといって大量に受け入れても、まともに訓練もできません。徴兵制という制度は現代の軍隊にはなじまなくなってきているんです。

と、徴兵制採用には反対である旨を述べている。
この「なじまない」理由の焦点は、「大量に受け入れても」という点にあるのだと思う。

現代になじむ?「就活徴兵制」

同書で、森本元防衛大臣は、自衛隊体験入隊制度を提案している。(Kindle版 Location #3596〜)

森本敏氏の「体験入隊制度」案(川添要約)

陸上防衛力は、海・空自衛隊と異なり、要員確保が必要。
そのため、大学生・専門学校生が受けられる自衛隊体験入隊・研修制度を設ける。
この制度を受ける場合、選択制で以下のいずれかを選ぶ。
1) 海外青年協力隊の助手など海外での支援活動(6ヶ月)
2) 国内の被災地での災害救援活動(6ヶ月)
3) 陸上自衛隊で体験研修(3ヶ月)
これらのいずれかを在学中に行うと、研修修了の証明書を発行される。
この証明書には以下のような効力をもたせる。
・企業の就職試験を無条件で受けられる(経団連などと協力・約束)
・公務員の採用条件になる

これによって常時30〜40万人が陸上自衛隊で訓練を受けているという状態を作れる。

この制度を受けるかどうかは当然学生の「自由」だが、選択しなければ就職活動において不利になるので、実質的には多くの学生がそれを選ばざるをえないようになるだろう。

また、選択肢の1)〜3)では、海外支援活動、災害救援活動はともに6ヶ月なのに、自衛隊のみ3ヶ月になっている。大学生の休み期間が長いとはいえ、在学中に6ヶ月の期間を確保するのはたいへんだ。また、海外に6ヶ月行ける学生はごく限られるだろうし、災害救援活動は災害が起きなければ実施できない。
ということは結局、この制度で3)の「陸自3ヶ月研修を選ぶ」のが現実的であり、就活においても有利になるといえるだろう。

また、初めに紹介した自衛官候補生の教育期間と、森本氏の提案する陸自での体験研修期間は、ともに3ヶ月。
これはぼくの推測だが、森本案の体験入隊制度が実施されれば、陸自3ヶ月を体験したものは、研修修了の証明をもらえるだけでなく、自衛官候補生と同じ期間教育を受けたということで、任期制自衛官にもなれるようになるのではないか。

つまりこの制度においては、まずは企業の就職試験にすすむための切符を与えられ、そして万一企業に就職できなくても自衛隊へ就職という道が残されているという形になる。

強制でなく自主的な選択の形をとりながら、就職に不安を抱える学生に産業界と組んで自衛隊という「選択肢」を与え、訓練をさせるにはうってつけの方策だ。
これはいわば就職を人質にした実質的徴兵制といえるのではないだろうか。「就活徴兵制」である。

森本氏は、徴兵制は国民がまったく受け入れないことは明らかなので採用しないとしているが、実は、このような体験・研修制度があれば、徴兵制がなくても兵員を確保できるということなのだ。

「他国戦争参加権」が「就活徴兵制」をもたらす危険性を恐れる

現時点でも自衛官は足りておらず、さらに「わが国では、少子化・高学歴化が進み、募集の対象となる人口が減少しており、自衛官の募集環境は、ますます厳しくなっている」(平成25年版防衛白書)と防衛省は危機感をつのらせている。
その上、「集団的自衛権」という名の「他国戦争参加権」の行使によって危険な海外派兵がありうるとなれば、必要な人員は増える一方、現在の人員も応募数もますます減ることが予測される。

それゆえ、上記のような、若者が「選ばないことを躊躇すること」によって実質的徴兵制となる「就活徴兵制」をとっていく危険性は非常に高いのではないかということを、強く恐れる。


※1 防衛省・自衛隊の人員構成
http://www.mod.go.jp/j/profile/mod_sdf/kousei/

※2 自衛官候補生
http://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/recruit/09.html

※3 国防軍とは何か(幻冬舎ルネッサンス新書)
http://www.amazon.co.jp/dp/477906080X/