1977年へのタイムトラベル
この間の土曜日、中学校のときの同期会が開催された。みんなが50歳になった記念。
これまでにクラス会をやっていた組もあったようだけれど、学年全体で開催するのは初めて。
ぼくもごく一部の友人とは会う機会があったが、それも近くて十年以上前だった。
なのでほとんどの人と、35年ぶりの、再会。
50にもなると、名前を呼び捨てにし合う関係が新たにできることはとても少ない。呼び捨てで名前を呼ぶこと、呼び捨てで呼ばれること、そんなことがまずずいぶん久しぶりのことだった。
それにあの頃は女性の——と書くとどうも違和感があるな、女子の名前も男友達と同様に呼び捨てで呼んでいて、ぼくにとってそれは同性も異性も同じ距離感をもって接することができているような、気持ちのいい関係性を示すものだった。
35年たった同期会の会場の中で、当然のように復活したそういう関係性。そんな関係性を持つ相手が一対一ではなく、まわりじゅうみんなお互いそうなのだ。
ぼくは高校が男子校だったし、大学生になったらなったでそれなりに大人で個々人がばらばらに活動するので、「みんな同じ立場」という感じではなくなった。だから、異性も同性もあわせて同じ立場の固まりの中にいる、という環境は、考えてみればぼくには中三のときが最後だったのだ。
みな同じ立場、みな対等であるということの、なんと気持ちのよいことだろうか。そしてそれが35年たってもそのまま変わらないことのうれしさ。
いまこの年になっての3年間とは比べものにならない、十代の時間。
あの時間を同じ空間で過ごした仲間が、姿は少し変わっても(記憶の中とまったく変わらない人もいてそれもびっくりしたけれど)、あのときと同じようにいてくれて、同じように会話ができる。
わずか数時間では、お互いの仕事や家族のことをそれぞれ聞くだけで精一杯だった。でもそれだからこそ、なんだか中学のときに大して実の無い親の悪口や勉強の心配を語っていたのと変わらないよなあという気にもなって。
これを機会にもっとしばしば会うようになれば、大人としての会話をするようになってゆくだろう。それはそれで楽しみなことだけれど、かつてあの教室の隅や廊下の端で、あるいは校庭を臨むベランダや、校庭のけやきの樹の下で、今となっては何を話していたかすら覚えていないのたわいのない会話の数々……それが35年目の同期会の会場で再現されていたようなおもしろさがあった。
それにしても。
人というものは、中学生の年齢で既にもうすっかり形作られているものなのだなあ。
表情のとりかた、笑い方、声、しぐさ、しゃべり方……みな例外なく35年前に見た記憶のあるそのままだった。
ほんとうにびっくりするぐらい、みんなあの時のままだった。
だから、目の前で繰り広げられる友人同士の会話を聞いていると、教室の中でやっぱりこうしてぼくは友人たちの会話を聞いていたのかなあということを思い出す……というよりも、そのときの気分にすっかりなってしまっていたような気がする。男同士でふざけあっていたり、女の子同士で顔寄せ合ってくすくす笑っていたり、そんな風景を眺めるのがなんとなく楽しくて、眺めながらときどきそこに混ぜてもらう。同期会の中でのぼくがそんなふうなんだから、かつてのぼくもやっぱりそんなふうだったんだろう。
二次会の会場を後にして、みんなと別れての帰宅後。
家族と会話しながら、じゃれついてくる猫に餌をやっていて、とても不思議な気分になった。
さっきまで、あの3年F組の教室にみんなといて、それからタイムトラベルをして35年後の世界に戻ってきた。そんな気分。
昔を懐かしみながら、今のお互いを語る……そんな会を想像していたのだけれど、そしてもちろん表面的にはそのとおりの会だったのだけれど、でも実際にぼくが感じたのは「懐かしい」という言葉とはずいぶん違うものだった。
みんなの存在が互いに交信し合うことで、今はもうない西戸山中学校という空間がその場に時を超えて生成されていたような感覚。
35年前に「戻っていた」のではなく、35年前の空間がそこにあったような感覚。ぽっかりとタイムトンネルが開いていて、その向こうにいたような経験。
たしかに現実として存在していたのに、いま目の前にある現実とはまた別の世界にいたような。
この間、もしみんなとしばしば会っていたら、そのときどきで記憶に重ね塗りがされて、時間を超えるような感覚を得ることはできなかっただろう。
こんな不思議で幸福な感覚は、あの晴れやかな卒業式から数えて35年間、それぞれがみな、それぞれの人生を自分なりに歩んできたご褒美なんじゃないか、と思ってみたり。
半年以上もかけて、今回の会を企画し、煩わしい連絡などの作業をし、開催してくれた友人たちに、ほんとうに感謝。
そして今この時代を共有してくれている同窓の仲間たち、お元気でいてくださる先生がたの存在に心から、ありがとう。