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Posts tagged ‘ことば’

15
4月

Wordに対峙する武器もうひとつ

できることならエディタだけで編集まですませ、レイアウトが必要ならInDesignで作ってPDFで納めたい……。
でもそうはいかない様々なシガラミが、ぼくをWordに対峙させているわけですが、先日紹介した本とは別にもう一冊、新たなる魅力的な武器を見つけました。

word_otoshi1『もう迷わない! Wordのしくみと落とし穴 2007対応』
西上原 裕明 著
技術評論社
ISBN: 978-4774136431

これも、順序を追いながら、Wordでやりたいことを確実に実現するための方法を、具体的に書いてくれている本です。
そして、「こうやるとうまくいかない」ということがきちんと書いてある。これがいい。

「これはWordの不具合です」
「こうすればよさそうに思えますが、正しい手順はまったく逆」
「(この機能は)使わないことをおすすめします」
「およそ理解しがたい仕様です」

なんて書いてある解説本はあんまりありません。
で、問題の原因がはっきりしていれば、そのことも書いてあるので、無駄な試行錯誤をする必要がありません。

そう、試行錯誤。

Wordで思い通りの結果が得られないのは、すごく分かりにくいながらも、何か守るべきルールや順番があって、それに従ってないからだと思っていました。
でもルールも正しい順番もなく、あるのは、「正しいとは思えないけどこうすれば一応できる」という経路だけだったのですね。
でもそうなると、それは膨大な試行錯誤からしか探し出すことができない。
だから、自分のかわりにその膨大な試行錯誤をしてくれた人の書いたものを読んで、わずか1900円あまりという対価でその成果を利用させてもらえるということのありがたさといったら。

この著者、西上原裕明さんは、本当に実に根気よくWordのしくみを調べています。ページ数としては240ページほどですが、ここまで具体的にまとまった情報として書くには、書かれている何倍もの、相当な努力が必要だったことでしょう。想像しただけで気が遠くなります。
こうしたいんだけどこれはどうすればいいの? なんでこうしてもこうならないの? などと、マイクロソフトの担当者にでも直接ぜひ聞きたい(そうでもしないとわからなそう)と思っていたようなことが、ずいぶん解消されました。
で、読んでから思いましたが、たぶん、マイクロソフトの担当者に聞いても分からなかったでしょうね。
このとおりにすればよい、という道筋が見えているのは(見せてくれるのは)、ほんとうにありがたいことです。

構成もいいし、注釈も図も、的確で必要十分な、ほしいと思う情報がほしいと思う場所にちゃんと載っているし。編集が行き届いています。熊谷さん、いい仕事しています。

前に紹介した本は『エンジニアのための……』とあるとおり、多少、テクニカルな感覚を持っていたほうが読みやすいのですが、この『Wordのしくみと落とし穴』は、ふつうの初心者の人でも抵抗なくささっと読めるでしょう。

それにしてもマイクロソフト。
世界最大のソフトウェア会社が、どうしてこんな不備の多いものを作るのか。

正直、前の本と、この本を読むまでは、ぼくは単にWordのユーザーインターフェースに問題があるだけ(それでも相当な混乱具合ですが)だと思っていたのですが、そもそもの機能の設計や実現にも問題がかなりあることが、今更ながらよくわかりました。
この本のタイトルにある「落とし穴」、これ普通は、使う側が陥りやすいミス、みたいなときに使われる言葉ですけれど、ことWordに関しては、ほんとにマイクロソフトが落とし穴を掘っているのだと言っていいと思います。

Wordがうまく使えないと思っている人は、多いはずです。
普通考えたらこうはならないはずなのに、こんな結果になってしまうのは自分が悪いんだ、何かちゃんとしたやり方があるはずだ……と。
でもそうじゃない。
悪いのは自分ではなく、Wordです。
使えないのが正常です。使えるように作られてないもの。

大河ドラマの『天地人』の脚本があまりにお粗末に感じられ、見続けるかどうかで迷っていたのですが、ある段階から「これはツッコミを楽しむことにしよう」と気持ちを切り替えて、今はけっこう楽しみにしていたりします。
それと同じ気持ちを、Wordにも持てるようになった気がします。

24
2月

Wordのスタイルと階層に対峙する武器

ぼくの場合、ワープロという種類のソフトウェアを自分から使うことは、ほとんどありません。文章を書くときはアウトラインプロセッサとエディタ、印刷物として体裁を整えるのはDTPソフトを使うので、ワープロの出番がありません。
しかし、書式とレイアウトを持つドキュメントを、編集可能な形でやりとりするための標準的なファイル形式の決定打が未だに存在しないため、そのようなドキュメントを作成するソフトウェアとしては圧倒的なシェアを持っているMS Wordのdoc形式ファイルが事実上の標準になってしまっているという事実があります。
それでいて、そのファイル形式の問題なのかどうかは知りませんが、doc形式をオープンしたときの再現性はソフトによってかなりまちまちで、Windows版Wordとの互換性を売りにしているマイクロソフト製のMac版Wordでさえ、安心してそのまま使えるとは言いがたい状況です。

結局、標準ドキュメントとしてのdocファイル作成ソフトとして、Windows版のMS Wordを使わざるを得ないことが少なからずあります。

話は少し変わりますが、書式を効率良く、正確に整えるには、「スタイル」という機能の利用が必須です。
また、ぼくらが仕事で書くようなドキュメントは、章・節などの論理的な階層構造を持っています。本文中に挿入する箇条書きが階層を持つこともよくあります。
さらに、本文中の他の部分の参照、本文中からの図表の参照、目次、索引、注釈といった多様な参照情報を含んでいます。こうした参照関係の作成と活用が簡単にできる必要もあります。
必要……というか、人間にとって煩雑なこうした作業をこそ、効率よく正確に行えるのがコンピュータを使う意義です。

で、Wordなんですが、まさにこうした作業をしようとすると、うまくいかないんだこれが!
特に上にあげた機能が混在するとき。階層構造を持った見出しのスタイルとか、箇条書きの階層とか、いくらやってみてもわけがわからない。

うまくいかないものだから、とりあえず他のソフトで作って持っていったりしているのだけれど、先の互換性の問題で壁にぶつかることもあり、また最終的にはWordで修正することになるので、その時点で困ったことが多々起きます。

そうは行っても避けて通れぬ道なので、これはソロソロ腰をすえてWordと対峙しなければ……あのWordのヘルプとか、MSのサイトとかを渉猟するべきなんだろうなあと覚悟をきめつつありました。

そんな折、ちょうど別の本を探しに訪れていた書泉で、いつもは完全に通過するOfficeの棚をやや憂鬱になりながらも(憂鬱な理由は上記以外にもあるのだけれど、この点はまた改めて)ながめていたところ……この本を見つけました。

word

エンジニアのためのWord再入門講座
美しくメンテナンス性の高い開発ドキュメントの作り方

ISBN:978-4798117133
佐藤竜一著、翔泳社刊、2008年5月

目次を見、ぱらぱらとめくって見てすぐにこれだ!と。
これこれ! このような本が欲しかった。

まさにぼくの知りたかった、スタイルと階層についての解説がきちんとした文章で書かれていました。

著者の問題意識もぼくととてもよく似ています。
なぜシステムエンジニアやプログラマが作るドキュメントが、データとして扱える形で作られていないのか。
ぼくが不思議に思っていたことに、この著者も疑問を呈し、またいらだっているようにみえます。

ともあれ階層のスタイル。
これを読んでようやくわかりました。
「こうやったらこうなるはず」という予測のもとに操作して、その予測がはずれるだけでなく、思ってもいなかったことが起きる理由が。
三つの別の概念(モデル)が混在した設計になっている。
ななんだってー。

で、そのうちの一つは、インデントの深さから階層を判断するんだと! 論理的な階層にスタイルを割り当てるものと思っていたら、書式(単なる段下げ)が論理構造を定義するしくみになっていたなんて。しかも他のモデルと混在するから、それだけで階層が定義されるわけではないし。
こんなのわかるわけない。なんなんだこの設計……。

いやしかし。
これをもとに、もう少し自分でも探求してみたいと思いますが、原因がわかっただけでずいぶん心が軽くなりました。

ほんとうにこういう解説書が欲しかった。
もっと早く見つけたかったけど、こういうのは検索では探しあてにくい。
リアル書店、特にこの手の本に強い書泉ならではの出会いだったかもしれません。

Wordを開くことが楽しみになった……というのはちょっと言い過ぎかな。
でもWordを、前向きな意味で探求しようと思わせてくれたのは間違いないことです。