また新しい体験をiPod shuffleが
自分の持っているすべての音楽を持ち出すことができたら。
くるくると軽快に回すことでスクロールができたら。
限られた曲数しか持ち出せないなら、好きな曲を集めてランダムに演奏したら。
アップルをすごいと思うのは、機能やユーザーインターフェースを常に「新しいユーザー体験として」提供し続けるところです。
ほとんどの場合、技術そのものはアップルが独自で開発したものではなく、また特別に目新しいものでもなかったりするのですが、アップルが料理すると実に「楽」(タノしい/ラクな)であるユーザー体験に結実します。
今回のiPod shuffleも、そのコピーにある「talk」「しゃべる」という言葉を見ただけで「何だ何だ?」と興味をひきます。
その一方で、アイデンティティはしっかり保つ。
端的に言えば、あの白いコードの維持、です。
これほど小さい本体なら、ヘッドホンタイプにしたり、こんなウォークマンのような形[japanese.engadget.com]にすることは充分可能。コードがあまりじゃまにならないというユーザーの利点もあるはず。
それでも、白いコードを維持したのは、それがiPodとしてのアイデンティティであり、スタイルである、ということなんだと思います。
コマーシャルでも強調している白いコードをなくす、あるいは目立たなくするときがくるかもしれませんが、それはiPodのスタイルの変更なので、ラインナップとして一部の製品のコードをなくすという形ではなく、全iPodのスタイルを変えて新しいアイデンティティを表出することになるのではないでしょうか。
また、培ってきた技術やデザインの中から「強い遺伝子」をきちんと残して伝えてゆく「進化」のシステムを内在しているのが、アップルの芯にある強さです。ただすぐれたデザイナーがいるだけでは実現できない強さ。このことは一度きちんとまとめておきたいと思っていますけれど、ほんとうにすごい。
今回のshuffleで言えば、曲名発話。これはiPodが音声を合成するのではなくMac OS X側の機能であるVoiceOverを使っています。VoiceOverはすでにOS Xのユニバーサルアクセスの機能として使われている技術ですが、それをこのような形で製品の根本的なデザインのベースとして組み込むということ。
これはMacの技術の巧妙な宣伝にもなります。Windowsの同等の機能とその品質においての差を、いわばiPod上でデモンストレーションするようなものです。
そろそろ出てくるSnow Leopardでさらに強化して、それをshuffleでデモンストレーションするということなのかもしれません。
- www.apple.com/jp/の「この小ささが、しゃべりだす」という文字がきれいじゃないなー、と思ってよく見るとヒラギノではない? 似ているけど、微妙に違う部分が質の違いと言えそう。
- それにしても「Small talk」とは……。もちろん、このプロダクトを表すのにこれ以上ないほど的確なコピーです。その上で、Macintoshの母たるSmalltalkを想起してしまうコアなユーザーの心もさらにつかんでしまう……なんてことまではコピーの意図ではないと思いますが……でもアップル社内では話題になったろうな。
- その一方、日本のページにある「話せば、分かる」ってコピーはどうか。「話せばわかる」[ja.wikipedia.org] って、日本ではあんまりいいイメージの言葉ではないのだけれど。
Wordのスタイルと階層に対峙する武器
ぼくの場合、ワープロという種類のソフトウェアを自分から使うことは、ほとんどありません。文章を書くときはアウトラインプロセッサとエディタ、印刷物として体裁を整えるのはDTPソフトを使うので、ワープロの出番がありません。
しかし、書式とレイアウトを持つドキュメントを、編集可能な形でやりとりするための標準的なファイル形式の決定打が未だに存在しないため、そのようなドキュメントを作成するソフトウェアとしては圧倒的なシェアを持っているMS Wordのdoc形式ファイルが事実上の標準になってしまっているという事実があります。
それでいて、そのファイル形式の問題なのかどうかは知りませんが、doc形式をオープンしたときの再現性はソフトによってかなりまちまちで、Windows版Wordとの互換性を売りにしているマイクロソフト製のMac版Wordでさえ、安心してそのまま使えるとは言いがたい状況です。
結局、標準ドキュメントとしてのdocファイル作成ソフトとして、Windows版のMS Wordを使わざるを得ないことが少なからずあります。
話は少し変わりますが、書式を効率良く、正確に整えるには、「スタイル」という機能の利用が必須です。
また、ぼくらが仕事で書くようなドキュメントは、章・節などの論理的な階層構造を持っています。本文中に挿入する箇条書きが階層を持つこともよくあります。
さらに、本文中の他の部分の参照、本文中からの図表の参照、目次、索引、注釈といった多様な参照情報を含んでいます。こうした参照関係の作成と活用が簡単にできる必要もあります。
必要……というか、人間にとって煩雑なこうした作業をこそ、効率よく正確に行えるのがコンピュータを使う意義です。
で、Wordなんですが、まさにこうした作業をしようとすると、うまくいかないんだこれが!
特に上にあげた機能が混在するとき。階層構造を持った見出しのスタイルとか、箇条書きの階層とか、いくらやってみてもわけがわからない。
うまくいかないものだから、とりあえず他のソフトで作って持っていったりしているのだけれど、先の互換性の問題で壁にぶつかることもあり、また最終的にはWordで修正することになるので、その時点で困ったことが多々起きます。
そうは行っても避けて通れぬ道なので、これはソロソロ腰をすえてWordと対峙しなければ……あのWordのヘルプとか、MSのサイトとかを渉猟するべきなんだろうなあと覚悟をきめつつありました。
そんな折、ちょうど別の本を探しに訪れていた書泉で、いつもは完全に通過するOfficeの棚をやや憂鬱になりながらも(憂鬱な理由は上記以外にもあるのだけれど、この点はまた改めて)ながめていたところ……この本を見つけました。
『エンジニアのためのWord再入門講座』
美しくメンテナンス性の高い開発ドキュメントの作り方
ISBN:978-4798117133
佐藤竜一著、翔泳社刊、2008年5月
目次を見、ぱらぱらとめくって見てすぐにこれだ!と。
これこれ! このような本が欲しかった。
まさにぼくの知りたかった、スタイルと階層についての解説がきちんとした文章で書かれていました。
著者の問題意識もぼくととてもよく似ています。
なぜシステムエンジニアやプログラマが作るドキュメントが、データとして扱える形で作られていないのか。
ぼくが不思議に思っていたことに、この著者も疑問を呈し、またいらだっているようにみえます。
ともあれ階層のスタイル。
これを読んでようやくわかりました。
「こうやったらこうなるはず」という予測のもとに操作して、その予測がはずれるだけでなく、思ってもいなかったことが起きる理由が。
三つの別の概念(モデル)が混在した設計になっている。
ななんだってー。
で、そのうちの一つは、インデントの深さから階層を判断するんだと! 論理的な階層にスタイルを割り当てるものと思っていたら、書式(単なる段下げ)が論理構造を定義するしくみになっていたなんて。しかも他のモデルと混在するから、それだけで階層が定義されるわけではないし。
こんなのわかるわけない。なんなんだこの設計……。
いやしかし。
これをもとに、もう少し自分でも探求してみたいと思いますが、原因がわかっただけでずいぶん心が軽くなりました。
ほんとうにこういう解説書が欲しかった。
もっと早く見つけたかったけど、こういうのは検索では探しあてにくい。
リアル書店、特にこの手の本に強い書泉ならではの出会いだったかもしれません。
Wordを開くことが楽しみになった……というのはちょっと言い過ぎかな。
でもWordを、前向きな意味で探求しようと思わせてくれたのは間違いないことです。
あちこちで撮ってるもんだ(太平洋上を除く)
iPhoto ’09は、顔認識とジオタグ(緯度経度情報)による分類が便利。便利だけでなく楽しい。
写真を整理するという手間をできるだけなくすことが、自動的に分類された写真を見直す機会を与えてくれるとともに、もっと写真を撮りたいと思わせてくれる。
ぼくは、これこそコンピューター、だと思うんです。人間がやらなくていいことを機械がやってくれて、その分人間は人間にしかできないことをもっとできるようになる。そのための機械であるはずだもの。
なんだか最近はコンピューターがあることによって却って面倒なことが増えてますからね。
さて、写真の地図上への表示は、当然写真にジオタグがついてないとダメで、ぼくの場合はiPhoneで撮ったものにのみ、自動で付加されています。だからそれ以外の写真はiPhoto上に地図にピンたてて(iPhoneといっしょ。こういうことの一貫性が、当たり前なんだけどアップルはちゃんとやってくれる)いかなければなりません。それはそれで楽しいですが、しかしこうなるとGPS内蔵カメラかGPSロガーが欲しくなります。
GPSロガーがあっても写真に座標を埋め込むソフトが必要だけど……iPhotoがそこまでやってくれればうれしいのだけれど、まだその機能はないうようです。まあGPSロガーなんて全然一般的じゃないですからねえ。
ところでiPhoneでこれまで撮った写真を地図上にポイントしてみると、太平洋の彼方で撮ったことになっているものがけっこうありました。もちろんそんなところには行ってないんですが……。
何かでそういえば読んでたような気もしますが、iPhoneのジオタグに以前バグがあったんですね。2.1で治っていたようですが、その前に撮った写真は、東経なのに西経として記録されていたようです。なので東京で撮った写真は、ちょうど太平洋の真ん中、日付変更線を中心に線対称な西経140度付近で撮ったことになってます。
西経を東経にするだけだから、iPhotoで直すよりデータ直接書き換えたほうが楽そう……。
FlickrやFacebookへのアップも簡単になりました。ただFlickrにはジオタグは持っていかないみたい。プライバシーなので、設定などの面倒を避けたかったのかもしれない。
もはやiPhotoなしで写真を扱うなど考えられないので、iPhotoのライブラリデータを共有しつつもっとつっこんだことができるiPhoto Proが欲しくなります……ってそれApertureか?
SONY Typecorder(ポメラの祖父たち)
ポメラを買ったときのエントリーに「持ち歩けるフルキーボード入力端末。取り出して、すぐにすばやく打てる機械。iPhoneとは別の方向で、ぼくのもうひとつの長年の望みでした」と書きました。
その望みを託していた、いくつかの機械についての昔話、その一。
SONY Typecorder。1979年発売。
いや探した探した。名前も忘れていたので、いろいろな検索ためして、ようやく見つけました。正式名がわかっても、ほとんど情報はないですね。ソニーのサイトにさえ無いみたい。
実物が、コンピューター歴史博物館に保存されているようです。
あとMO5.COMというサイト、こちらはパリにある私設のマシン&ゲームコレクションのようですが、こちらにも保存されているようです。
表示は40文字、1行。欧文のみで、データはマイクロカセットテープに保存。たしか電池駆動できたかと。
日本で発売されたかどうかは覚えていない。当時ぼくは大学生だったので、英語だけですむなら、これで授業のノートがとれるのになあと思った覚えがあります。
日本語の搭載などまだ夢の夢の時期でした(日本語ワープロは、この前年に東芝から机ほどの大きさのものが世界で初めて発売されたばかり)が、英文だけでもいいから欲しかった。持ち歩いて、その場でタイプして保存できるということの魅力。
キーボードのキーの形状が特徴的で、これはSMC-70 (ソニー初のパーソナルコンピュータ、1982年発売) に受け継がれています。
搭載のマイクロカセットテープは、普通に音の録音・再生ができて、特に記者が取材に使ったり書き起こしに使うことを想定してたんじゃないかな。当時のソニーが得意な技術を活かし、用途を明快に特化してデザインしたのだと思います。
製品名 | Tyepcorder (OA-S1100) |
メーカー | ソニー |
CPU | ? |
RAM | ? |
ROM | ? |
テキスト表示 | 40文字1行 |
グラフィック表示 | なし |
キーボード | QWERTY 58キー |
インターフェース | カセット用ジャック ( Mic + Ear + Remote ) COMM LINE 電源DC 6v |
ソフトウェア | ソニー製 専用ワードプロセッサ |
寸法 | 280 x 215 x 45 mm |
重さ | 1385 g |
発売 | 1979 |
価格 | 1200 USドル |
しあわせのバトン、Zephyr
Macの初期のころにも、わぁ、と声をあげたくなるすてきなソフトウェアにたくさん出会いました。
iPhoneは、それに加えて、他のひととつながっていること、やっぱり「わぁ」と声をあげているだろうひととつながること、そのような体験が得られるのがなにより楽しい。
ひとをしあわせな気持ちにさせるソフトウェアを作るのは、それ自身もまたしあわせなことだろうなあ。
ゼファー。きらきらと輝くメッセージを、地球に放つことのできるソフトウェア。
誰かが放ったメッセージが、地球のあちこちでバトンのように手から手へ(ああ、ほんとに文字通り手から手へ、なんだ)受け渡されて、ぼくの手のひらのうえにきらきらと輝きながら描かれます。音を奏でながら、送り手が指で描いたとおりに。
いいなと思うメッセージは、また誰かに受け渡して、ちょっとと思うメッセージは、ストップ。
自分が放ったメッセージが、地球のどこに飛んでいったか、それを見ることもできます。
ずっと見ていたくなる。そして、幸福なメッセージを、幸福になれるメッセージを、出したくなります。
サンキュー、smule。あなたたちは、すばらしいです。